INSPIRATION
物理的空間の誂えだけではない、道路空間の魅力とその活用を多くの人たちと共有したい。 また、この「みち」が、様々な利用方法と利用者によって一日中活気ある「みち」として存在していることにも着目しました。範囲は、東洞院通の四条通から御池通りまでの区間を研究対象とし、「歩いて楽しい、安心安全に暮らせる東同院通り」とテーマを設定。そして『東洞院歩いて暮らせるみちづくり委員会』を発足し地域の人、専門家、東洞院通りを愛する人、管理する人、興味のある学生がメンバーとなり、8ケ月(2016年)の企画調査期間を経て、翌年(2017年)に学びの期間を経て実践イベントを開催しました。 プロジェクトを促進するためにも、様々な人達と関わりたいという思いがあったので、スタート時点では対象範囲とタイトル設定くらいに留め、あえて具体的内容やゴールを決め過ぎずに、毎度どちらの方向へ進むかを機敏に選択することにしました。また、初期段階では建築を学ぶ学生さんにも関わって頂きました。そして経過段階で主な活動とその目標が設定されて行きました。委員会での活動を認知されやすいようにロゴも作ることにしました。
漢字の「東」を東洞院通りに見立て、「みち」が表現されています。私たちが「みち」を介したきっかけづくりを行い、人々の交流が生まれる「交差点」のような役目となるように想いが込められています。
おもな活動と目標
「歩いて楽しい、安心安全に暮らせる東洞院通り」へと改善するための提案作成
「その実現を担うコミュニティづくり」
STEP : 01
■ 調査 (ここでの「みち」「とおり」=東洞院通り)
活動の範囲として、南は四条通り、北は御池通りまでの約800M。
まずは地域の事、とおりの事を知ること。
「みちの歴史」「みちの特徴」「みちの雰囲気」「みちの幅や構成要素」
「みち沿いの特別な建物等」「みち沿いの町内や名前」・・・
- ①書誌
【関係する本や論文、地図より注目した点】 - ・800Mの間で接する町内の数が10あり
- ・通り添いの建物の高さと規模の変化
- ・戦前は建物密集地であったが、戦後の境で公園(御射山公園)が作られる
- ・京都御所より南に位置する東洞院通りには上皇の居所があった
- ・牛車や馬による物資輸送も盛んで大昔より地元の人のみならず多様な人々が行き交うみち
- ・享保年間(1716-36)には交通渋滞が深刻となり日本で初めて一方通行に定められた
- ②現況調査
- 【とおりでの実測・観察・撮影記録・統計結果、注目した点】
・道幅7M - ・車、自転車、歩行者レーンを線引きし区別されているが実際は人、乗り物の動きが混在
- ・電信柱44本 (800M間)
- ・通行の邪魔になる状況としての要因
- ①渋滞の列
②停駐車の自動車、バイク
③路上看板
④店舗前に広がる観光客 - ⑤敷地に出入りする自動車等(搬入搬出、駐車駐輪)
- ・警備員さんの存在(店舗・駐輪場・駐車場・搬出入経路)
- ・速度30Kmのスピード制限あり
- ・800Mの間には、利用者数や混雑の違いが顕著
- みち歩きとしては四条-錦小路間が一番多く、次いで三条-姉小路通り間
- ・歩行者にとっては歩きにくいだけでなく危険が多い
- ・御射山公園には、子供だけでなく一日を通して様々な沢山の利用者がいる
- ③ヒアリング
【住民の方・働く方に話を聞く】
エリアに詳しい住民の方・大学の先生と共にフィールドワークを実施。
みちに対する意見・歴史・特徴・変えたいことについての意見収集や、
住民の方との直接ヒアリングの結果、注目した点 - ・東洞院通りを歩きやすく、車椅子のために作ってほしい
・自転車と車と人が多く危ないため、車が少なくなってほしい
・マンション内は交流あるが、地域の人との交流をしたい
- ④事例調査
- 事例として、現存する歩行者にとって歩きやすい道の例を探し(国内外)、東洞院通りと比較しました。「いいみちのデザインとは?」「歩きやすいみちとは?」物理的な街路空間を作り直すことはとても難しいですが、事例を辿りながら道の可能性を調べた結果注目した事例の一つは身近な三条通りです。三条通りは歩行者専用と車道が石畳で分けられており、電柱も南側に整理され歩きやすいみちになっています。また「京の三条まちづくり協議会」があり地域で積極的にまちづくりに取り組まれています(協議会長さんへお話も伺いました)。また三条通り(東西方向)は東洞院通り(南北方向)との交差点もあり、活動を通しての将来性も感じました。
STEP : 02
■専門家によるレクチャー
コミュニティを醸成し、エリアの価値を高めるような、これからの時代に求められる開かれた道と公園の作り方、使い方、育み方について議論する、トークイベントを企画しました。
自分たちの現状調査を終えて、みちの可能性や未来を考え始めました。私たちに何ができるか、どれくらいみちを変えられるか。本や例からいろいろ自分たちで調べていましたが、やはり経験が足りず、専門家の話から学びたいと考えました。5ヶ月間で3つのレクチャーを開催 (全回満席御礼) 。会場では、委員会メンバーの位置や講師、モデレーターとの距離、椅子やソファーなど座る椅子の種類も変化させながら、ゲストの先生方、参加者の方(35名)共にリラックスし発話してもらい易くなるセッティングはどのような形態かも試みました。
VOL.1
自らの出身地、広島県福山市をペースに建築設計とまちづくりに取り組み、世界的にも評価されている建築家、前田圭介さん。福山駅前の老朽化したアーケード街を公園的なストリートスケープへと生まれ変わらせた「とおり町 Street Garden プロジェクト」を中心に、パブリックに動きかけながら、その場にしかない風景を作り出す建築的実践について話を伺いました。
前田氏の「福山本通・船町アーケード改修プロジェクト -とおり町Street garden-」の語らいより得たヒント。“ 新しいことに一歩踏み出したことが評価されることが重要で、なんかそういうことになっていくと徐々にその公共空間の使い方が、安全を確保しながらちょっとゆるく使えると本当に、こう楽しめるんじゃないかなっていうのを10年スパンとか、なんかそういうなかでやりたいなとは思っています。” (口語のまま抜粋)
1回目の会場設営において、参加者の方々が不快なくイベント進行することに注力した結果、前田氏が一番目立つ椅子と位置、モデレーター役の堀口氏が2番目、そして参実行委員会メンバー(3名)は何かあった時に対応出来る様、フットワーク軽く動ける位置での見守りとしての参加となりました。
VOL.2
世界各地の都市のパブリックスペースで出会った印象的な場面から、「思い思い」「居合わせる」「たたずむ」など、人が居る風景の質を語るための言葉=『居方』を提案している建築計画研究者、鈴木毅さん。これまでに見つかった代用的な居方の種類と特徴、人の居る場面の観察や記録の方法、御射山公園など京都の街中の居方、さらに魅力的な人の居る風景を生み出す仕掛け・デザインについて話を伺いました。
鈴木氏の[印象的な情景]についての説明で紹介された 「笠原小学校(象設計集団)」「表参道のスパイラル(槙文彦)」の語らいより得たヒント。“ 建築計画ってゆうジャンルにいるんですけど、デザインとどう違うのかと思われていると思うんですけど、今日、建築関係以外の人も参加しているので。いろいろ定義があると思うんですけど、私は、これからの街にどのような建物が必要かを考える分野だと考えています。デザイン側は建物自体を実際に建てるんですけど、どんな施設、場所などが街に必要かを考える企画が求められていると考えています。何が必要かなんて、分かっているだろうと思っているかもしれないですけど、そうでもないんですよね。やっぱり時代によって必要なものって変わっていきます。” (口語のまま抜粋)
2回目の会場設営において、1回目は実行委員会の顔が見えにくいセッティングとなってしまったことを踏まえ、活動や存在をしっかり把握してもらう為にも、初めから席を設け、前半と後半でセッティングを変化させ、後半では鈴木氏と堀口氏と同様に前に出ることにしました。またリビングの様な空間を作りカジュアルに議論を交わせる工夫をしました。
VOL.3
建築と設計のランドスケープデザインの二つの専門性をもって、住宅や大学キャンパスなどの計画、設計に関わりながら、京都市の「ちびっこひろば」など地域空間の活性化支援も行っている、実務家、研究者の武田史朗さん。パブリック(公共的)なオープンスペースがうまく使われて維持されるには、同時にその場所がプライベート(私的)であることも重要、とうパラドキシカルな話について、事例を通して伺いました。
武田氏へ「道路空間ってどういう可能性と課題があると思いますか? 」という質問への回答より。 “ 純粋に空間として見た時には道路とその敷地の中っていうのが、ほんとに分かれているわけではないんですね。だからこれもほんとに土地を持ってそこで収益がある話がある事業者の方のことを、僕がどれだけ理解して言っているか分からないんだけども、 やっぱり地先で、道路に対して、補助空地みたいなものを取って、そこがうまく道行く人をもてなせる空間だったりとか、することでそこの建物にメリットがあるようなことがあるかもしれないので、そういうことを一個一個やっていくってことの中で、道路に対する見方とかがかわっていったりするのかな。” (口語のまま抜粋)
3回目の会場設営において、2回目のヒアリング時に、実行委員会メンバーの席が、参加者さんの先頭に位置する席どりをしており後半で急に前へ出る形となったので、3回目では最初から前へ出た状態で、モデレーター側たて列の並びとした事により、参加者さん、ゲストトーク講師、モデレーター、委員会メンバー、のポジショニングが明確となりました。全3回とも、参加者さんの発話の頻度は変わらず時間内に収まらない質疑の数があり盛況でした。委員会メンバーの座席位置による違いは、委員会の存在や活動に対する把握の違いがあったと思われます。
STEP : 03
■イベントの企画・実施
[STEP : 01 ][ STEP : 02]での学びを踏まえ、何をもって「歩いて楽しい、安心安全に暮らせる東洞院通り」へと近づくことができるのか?限られた環境条件のなか、いくつかのアイデアがありました。しかし、本来、広く地域の方々に興味を持っていただいて初めて意義ある活動となりますが、これまで、現調や紹介で直接話をする機会を持てた方と、建築や都市について興味のある方といったごく一部の方達にしかプローチ出来ておらず、多くの地域の方々への広報や周知、活動認知はなかなか行き届かずの状態でした。もっと地域の人達へコミットするために「歩いて楽しい、安心安全に暮らせる東洞院通り」を体現する内容のイベントを考えなければなりません。そこで、コミュニテイーづくりのためにもなり得る地域の人達に参加してもらえるイベントを企画開催することにしました。開催に至るまでにも、みちや公園に関係する方々とのご縁を頂きながら、委員会の「思い」と頂いた「つながり」を大切にして進めていきました。
■イベントコンセプト=「みちがつなぐ、ご近所さん」
地域の人達が自然と交流できるイベントとして、物理的なモノで「みち」に変化を与えるきかっけとして「縁台」づくりのワークショップ(以下「WS」と記す)を決定。『Do Endai Yourself(ドゥ縁台ユアセルフ)』と題して、軒下や家/店の玄関などでちょっとした居場所をつくり、また東洞院通りにとっての縁側となるような縁台づくりのWSを開催しました。その後、連動イベントとして『御射山deお月見』と題しお月見イベンを企画し御射山公園で実施しました。WSで自分が作った縁台を各々が持ち込んでお月見をみんなで楽しみます。
『Do Endai Yourself』2017.10.01
『御射山deお月見』2017.10.04
『Do Endai Yourself』(2017.10.01) 実施までの過程①~⑦
- ①縁台の検討(形・デザイン・使い方・模型作成)
- 当初は床几台から着想を得ました。
- バリエーションによるコミュニケーションの予測、模型で実際の作り方検討なども行いました。
- ②縁台の試作と改善
持ち運び易いサイズへの改善や、作業工程の検討と見直しを行いました。
御射山公園愛護協力会の代表には、地域の様々なお話を伺いました。
縁台の試作で一部どうしても改善できない問題の解決方法も教えて頂きました。
③縁台づくりWSの内容検討
④東洞院通りへ設置検証・設置場所を想定してのコラージュ作成
- ⑤WSの縁台準備(諸条件比較検討・材料の選定決定・調達・木材加工・ロゴの刻印)
試作、材料費、WSでの加工手間、流通、準備、座布団との相性、室内外に設置すること等、
見た目、質感、等々考慮の結果、ひのき一枚板に決定しました。
-
- ⑥座布団の検討(デザイン・タグの検討・生地選び・試作と改善)
ノムラテーラーにて30種類ほどの生地を事前に委員会にて準備。
当日参加者さんに生地選びを楽しんでもらいます。
サイズは当初想定してた正方形から、縁台とのバランス、座り心地を検討。
長方形としました。
- WSでは0から作ることを想定しました。
生地の裁断からスタートし、タグを挟み込み三方を縫います。(手縫いとミシンを想定)
最後の仕上げすくい縫いを実演を通して学びます。
仕上げの房糸を生地に通し、結んで完成です。
試作によりWS当日のタイムスケジュールでは時間不足と判明。
事前に2工程まで加工し下準備をしておくことにしました。
- ⑦WSの当日シュミレーション
限られた時間で、縁台作りと座布団作りを完成させれる為に、工程と時間割を綿密に確認。
作業に没頭するだけでなく楽しく、参加者さん同士で会話もできるようにと考えました。
『Do Endai Yourself』会場レイアウト
縁台づくりエリアと座布団づくりエリアの間に休憩コーナーを挟み、5組ずつに分かれて、全員同時に作業を進めました。
WS会場をoinai karasuma(烏丸蛸薬師)で開催しました。なるべくご近所(東洞院通り沿い)の老若男女の方々の参加をという思いから、ご近所の方でないと持ち帰りづらい一定の大きさ (幅100cm) と重さがあるという縛り(縁台本体)を設けました。また「縁台」だけでなく縁台に置く「座布団」もセットにする事で、木材や工具を扱うDIY=男性的な作業と細やかな縫物しごと=女性的な作業を組み合わせました。そして、縁台へのロゴ印字や、座布団のロゴ付きタグをつけることで、オリジナルの付加価値を与えています。当日は東洞院通り沿いにお住まいの方や、お店をされているご夫婦はじめ、子供2名を含む15名11組の参加がありました。(定員10組)
『御射山でお月見』(2017.10.04)
お月見が決まるまで
御射山公園は地域の大事なオープンスペースで、地域の人が一番集まりやすい場所です。スケジュールを考慮し実現の可能性を考えながら、たくさんのアイデア出しをする中、近畿大学の東さんが月見のアイデアを考え出してくれました。なぜ月見かというと、①イベント開催のタイミングが合う、②縁台を使える、③公園でできる、④みんなでできて誰とでも楽しめる、⑤古くから風習で共同認識がある、等が挙げられます。伝統的なお月見に「みちづくり委員会としての+αは何か?」「どの様な仕掛けがあると委員会の活動を理解してもらえ、且つ参加者さん同士の中で新しいつながりが生まれるのか?」ということに着目し、企画詳細を進めました。会場で使う制作物の試作や、人の流れ、溜りをスタディーしました。一番の重要なことは、公園を管理されている御射山公園愛護協力会のご協力のもと、地域の方と共に開催を進めることが出来たことです。
①会場構成
②参加者の流れ
イベント開始前、来場より着席までのお楽しみ
③タイムスケジュール
18:00・・・集合@御射山公園
18:20・・・みちづくり委員会の挨拶
企画とコンセプトの説明
18:30・・・行燈のライトアップ
18:40・・・団子とお茶を配る
18:55・・・御射山公園愛護協力会
会長様より
19:00・・・お月見のはなし
19:10・・・福引の結果発表 part1
19:25・・・虫の声当てクイズ
19:35・・・町内の話
19:50・・・福引の結果発表 part2
20:00・・・告知の募集
20:05・・・集合写真
④準備物とそのスタディー
行燈は子供にも作りやすい事を考え、イベント終了後に持ち帰れるように紐付きとしました。
穴を空けやすく絵も描けて、照明の色によって印象が変化する等の工夫をしています。
■行燈の作り方
■準備物諸々
お月見のイベントと銘打って開催しましたが、当日、お月様はなかなかビルに阻まれて顔を出さず、雲にも邪魔をされました。もちろん想定内だった為、お月様が見えなくてもコミュニケーションが生まれる企画を考えました。
・来た人の順にススキを一本ずつ活けてもらう(ススキは意外と背が高く葉は鋭い)
・参加者さんがどこからやって来たのか地図にシールを貼ってもらう(統計調査)
・行燈は最初から全てを灯さず参加者さんが集まり挨拶の後に全点灯(変化を味わう)
・お月見の風習について話す(知っている様でそうだったなと再確認)
・お団子とお茶を用意(一緒にお茶をすることで和やかに)
・公園の愛護協力会会長さんに挨拶を頂く(公園はいつも利用するけれど愛護協力会の存在や会長さんを初めて知る方も)
・福引や虫の鳴き声クイズをしてワクワクドキドキを共有
・東洞院通りに面する各町内の歴史話をする(途中、詳しく知る参加者さんが色々と教えて下さいました)
昼の集まりでなく夜の集まりであることが趣深く、子供も大人もご老人もなんだかとても楽しそうでした。また来年も月見イベントをしてほしいという声を頂きました。
・・・・・
企画からはじまり、イベント完了まで約1年8カ月。その間、通りにお住まいの方、学生さんやイベント参加者さん、専門家の方を含めて総勢約200名程度の方々との接点がありました。委員会メンバーがやる意義を確認し楽しみながらも、様々な方からのアドバイスを素直に傾聴しつつ、何が良いのか?を迷いながら考え進められたことにより、一連の流れが生まれました。つどつど、実行アイデアを練り進めることで小さいな活動なりにも、地域の方との関わりを持てたのだと思います。当初より期間限定での活動で諸事情により継続が出来なかったことは残念ではありますが、人と人とのつながりほど有難く面白いものはありません。そこに、推し進めるアイデアとイメージの共有でもって、形となり広がっていくことを体現することができました。